労務という分野で地域を元気にするさざなみ社労士事務所の菊地です。
今回は、従業員の残業時間を削減するために、会社としてできるちょっとした工夫について書いてみたいと思います。
残業時間が多いとどうなる?
従業員にとって残業時間が多いことのデメリットは、心身に負担がかかったり、プライベートの時間が減ったりすることと言えるでしょう。
では、会社にとって残業時間が多いことのデメリットは具体的にどんなことが考えられるでしょうか。
1. 残業代による支出が多くなってしまう 2. 36協定で締結している時間外労働時間の限度を超えてしまう 3. 労災発生のリスクが高まる
1.残業代による支出が多くなってしまう
残業代による支出は、発生する残業時間の長短に何のコントロールもしないでいると、毎月どのくらいになるのかわかりません。膨大になれば当然、会社の財政を圧迫することになりますので、月ごとの予測をしながら日々管理していく必要があります。
2.36協定で締結している時間外労働時間の限度を超えてしまう
2つ目のデメリットは、会社と従業員代表とで締結している36協定の時間外労働時間を超えてしまう可能性が出てくるということです。
労働基準法において、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)で締結できる時間外労働時間は、原則として1ヶ月につき45時間、1年につき360時間が限度となっています。(特別条項がある場合や適用除外業種である場合を除く。)
3.労災発生のリスクが高まる
最後に、労災発生のリスクが高まってしまうという点です。2021年、脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました。すでにこれまでも過労死と長時間労働の関連性はあると考えられてきましたが、残業時間がいわゆる過労死ラインとされる時間に達していない場合でも、これに近い残業時間や労働時間以外の負荷要因がある場合は業務と発症との関連性が強いと評価されるようになりました。
また、従業員が残業続きで集中力が低下すると、業務中に思わぬ事故を起こす可能性も高まってしまいますね。
以上3点、会社にとってのリスクを挙げました。最近は人が会社を選ぶ際、残業時間の長短をの一つ判断基準とする傾向もあります。そしてやはり従業員が健康で私生活も充実し、仕事で十分な成果を出してくれることが会社にとっても嬉しい状態であることに間違いありません。
ちょっとした工夫
では、残業時間を少なくするための工夫として、どんなことが考えられるでしょう。
近年の長時間労働への意識の高まりから、すでに取り組みをはじめている企業も多いことでしょう。でももし期待する成果があがらないなら、足元にあるちょっとしたポイントを見過ごしているかもしれません。
1.「労働時間」について従業員と共通の認識を持つ
労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間」また「使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」を言います。
たとえば、交通混雑回避の理由で従業員が自発的に始業時刻より前に会社に到着し、始業時刻までの間業務に従事しておらず業務の指示も受けていないような場合には、労働時間に該当しないとされています。だいぶ早くから出勤して業務をしていないのにタイムカードを切っている、または仕事が終わったのに周囲と無駄話をして帰らない従業員はいないでしょうか。
まずは、集計されている残業時間の中から、そもそも労働時間と解されない時間を除外していく工程を作ります。あなたの会社にも上記のような従業員がいる場合は、管理者が労働時間の概念や仕事が終わったらすぐ帰らなければいけないことを伝えます。ポイントは直接伝えて共通の認識を作っていくということ。そうすることで会社が労働時間管理を重要視しているという姿勢を見せていきます。
2.勤怠管理システムを活用する
最近はいろいろな人事労務系クラウドシステムがあります。テレワークの導入とともに勤怠システムのクラウド化を考えている企業も多いのではないでしょうか。新しいシステムを導入するとなれば、これまでの勤怠管理の方法を見直す機会にもなります。
できる限り不要な残業をなくしたい場合、会社で残業の許可制を敷くことがあります。従業員が残業が必要になった時点で上司に残業の業務内容と時間を申請し、許可が出た場合に残業できることとするのです。その申請と許可をクラウド上で可能とするシステムもあったりします。システム上でできることが増えれば、運用を変えていく選択も生まれます。
また1.の、労働時間の概念の再確認をすることにもなります。はじめはシステムの使い方について社内であれこれやりとりをすることになりますが、システム導入を労働時間に対する意識を高める機会と位置付けて取組むことができるのです。
もちろん人事労務担当者の勤怠集計の省力化による残業削減も期待できます。
3.ベイシック・ミステイクス(=誤った思い込み)を疑う
ベイシック・ミステイクスとはアドラー心理学で言うところの「誤った思い込み」です。「決めつけ」や「過度の一般化」「偏った価値観」などがそうです。個人の私的論理のことだそうですが、会社全体の考え方にベイシック・ミステイクスはないか疑ってみるのです。
たとえば「この業界はみんなどこもこうしている」とか「この仕事のやり方はこれが当り前」、「パートタイマーさんにはこういう仕事をしてもらうべき」のように、業種や属性によって仕事の進め方や配分について絶対にこうだ、という考え方はありませんか?長年の意識を変えるのは難しいことですが、逆にこういった疑いを持たない限りそれ以上は改善しないのかもしれません。
また、単純に機械やツールを入れてしまった方が断然業務が効率化するという場合や、業務の一部を外部委託するという選択もあります。そういった見落としはないかも検討します。
まとめ
ここまで残業時間を削減する工夫について書いてきました。以下の3点にまとめます。
1.「労働時間」について従業員と共通の認識を持つ 2. 勤怠管理システムを活用する 3. ベイシック・ミステイクス(=誤った思い込み)を疑う
これらの方法では根本の解決とまではいかないかもしれませんが、ちょっとした工夫として取り入れてみてはいかがでしょうか。制度変更や運用のご相談は当事務所へお気軽にご相談ください。
生産性向上や労働時間管理の推進に向けた取り組みに関して活用できる助成金もあります。詳しくは以下のリンクからご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
リンク:厚生労働省「時間外労働の限度に関する基準」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000123090.pdf
リンク:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要 (令和3年9月14日付け基発第0914第1号)」https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000832041.pdf
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署リーフレット「労働時間の考え方:研修・教育訓練等の取扱い」https://www.mhlw.go.jp/content/000556972.pdf
リンク:厚生労働省 令和4年度「働き方改革推進支援助成金」労働時間短縮・年休促進支援コースのご案内https://www.mhlw.go.jp/content/000922455.pdf
リンク:厚生労働省 令和4年度「働き方改革推進支援助成金」労働時間適正管理推進コースのご案内https://www.mhlw.go.jp/content/000921962.pdf
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